【特集】藍九谷職人・山本長左さんの工場を訪ねて。

 

江戸時代より続く石川県加賀地区の伝統工芸品・九谷焼は、
呉須(ごす)と呼ばれる黒色の線描きと多色の絵具を用いた上絵付けが特徴の焼き物。

窯ごと時代ごとにその技法はさまざまあり、赤、黄、緑、紫、紺青を使った「五彩」をはじめ
緑、黄、紫、紺青を使った「青九谷」、赤絵金彩の「赤九谷」などが有名です。
 
加賀地区には現在でも多くの職人たちが伝統を守りながら九谷焼の制作を続けています。
古九谷の染付様式「藍九谷」の職人である山本長左さんもその一人。
藍九谷の魅力や制作への思いを知るべく、山本さんの工場を訪ねました。


 
--山本さんが手掛ける「藍九谷」の特徴を教えてください。

九谷の絵付けにはいろいろな技法があり、白地の上に藍の染付けをした焼き物を藍九谷と呼んでいます。
九谷焼というと、赤、青、紫、黄、白色を使った五彩が有名ですが
焼き物の歴史を紐解くと鉄さび(茶)での絵付けの後に、青い線(藍)で描いたものが出て
その後、華やかな五彩が生まれたといわれています。
 


--山本さんが焼き物に出会ったきっかけは?

私の父は、骨董品が大好きな大工だったんです。
仕事で移築作業や山奥の古い建物を解体したときに、そこから骨董品が出てくるらしいんです。
で、それを持って帰ってきて、子供だった私たちに自慢してくるんですね。
『どうだ、いいだろう』って(笑)。

またすごいのが、私たちにそれを触らせてくれるんです。
普通、子供に触らせることなんてしませんよね(笑)。
 
--どうして九谷焼の職人になろうと?

ある日、父から10枚揃った絵皿を見せてもらったことがあったんです。
その皿を触っていると、10枚すべて同じではないんです。
絵がちょっと違ったり、形も均一ではなかったり。
普通10枚買うなら、きちんと形も絵も揃っている方がいいでしょ? 
でも人間の手で作られたもので、10枚きっちり揃うなんて大変な技術です。
そこで子供ながらに気づいたんですよ。
「きれいに揃うものは、機械やプリントでなくとも別の揃え方がある」ってことをね。

微妙に大きさが違ったりしても並べてみると同じように見えるのは
きちんとバランスが整っているから。
そんなことばかり考えていたら、焼き物の面白さに夢中になっていてね。
それで、こちらの世界へ入ったんです。




 
--現在工場にはたくさんのお弟子さんがいらっしゃいますね。

工場は1階と2階に分かれていて兄弟で制作をしています。
弟は形を作り私は絵付けを担当。
弟子たちは形作りのところに7人、絵付けに8人おり
それぞれ3〜4年で卒業する形をとっています。


 
 

--お弟子さんと同じ場所で作業されているんですね。

うちは学校のようなシステムになっているんです。
今年入った子、卒業していく子、私も含め、みんな一緒に仕事をしながら伝統を継承しています。
加賀の焼き物の伝統は、次の世代へ伝えていくことが大事だと思っていますから。


 
--具体的にどのようなことをお弟子さんに継承されているのですか。

下(の工場)で作った手作りのボディに手で絵を描いていくのですが、基本的に下描きはしません。
うちは数をこなすことも目的としているので、
正確な仕事をプロのスピードでできることを基本として教えています。

あと、ここにいる間は個性を出さないことも教えの一つ。
私の真似をしっかりできることが大事です。真似をするって実は難しいんですよ。
物事をしっかり見ることができるようにならないと、真似はできない。

私はこの仕事をして50年、独立して45年が経ちますが、初めからこの継承スタイルでやってきました。
今は全国に弟子たちがいることが自慢です。





--山本さんが絵付けをする中で大事にされていることを教えてください。

「必要なものを作る」ことです。世の中の人に、欲しいと思ってもらえるようなものを作らないと。
観賞用も多少は作りますが、本当に作りたいのは「役に立つもの」なんです。

私の器は主役側ではありません。あくまで主役は料理です。
料理を盛り付けたら他の人の器よりも美味しそうに見えること。それが一番大事。
加賀のために、これからもたくさんの弟子に継承していければと思っています。




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山本さんの器を求めて。

加賀市内では九谷焼の器を使って料理を提供する飲食店が数多くあります。
そのうち、山代温泉にある『亀寿司』は山本さんの器を愛用する一軒です。
実際どのように器を使われているのかお店を訪ねてみました。
 
昭和39年に創業した寿司店『亀寿司』。
2代目店主の市川修一さんは18年前、店のリニューアルを機に
器も地元のもので揃えたいと考えるようになったとか。
当時、顔なじみの旅館などから山本長左さんの器のことを教えてもらい、
アポなしで山本さんの工場を訪れたそうです。
 


「飛び込みで山本さんの工場へ行ったのですが『どうぞ入りなさい』と言ってくださり
すぐに器を見せてくださったんです。繊細で細かな筆遣いや生地を作るところなど、
すべての手作業を見せていただき感激しました。
そのとき、親切にしてくださった山本さんの人柄にも本当に惹かれましたね。
そこで初めて店で使う器を作っていただいたんです」
 
現在亀寿司では、絵皿ごとにのせる料理を考えて使い分けており、
山本さんの器には主に刺身や巻物の際に使われることが多いとか。


 
「地元の作家さんの器で旬の食材を使った料理をお出ししています。
器やグラスは観光客の方にも人気で、欲しいと言われる方も多く
取り扱い店をご紹介することも多いですね」と市川さん。
 
山代温泉にお越しの際は『亀寿司』で藍九谷の器を手に取りながら
加賀の旬の味わいを堪能してみるのも一興ですね。
 
 
【取材協力】
亀寿司
石川県加賀市山代温泉17-8-2
0761-76-0556
営/11:30〜14:00、17:00〜21:30
(前日までに予約)
休/日曜(変更の場合はHPに掲載)
http://kame-sushi.com/